ー合気と気功と智慧の学舎ー

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「秘伝」が学習能力を覚醒させる

大東流には技法や理論を「秘伝」にする伝統がいまだに色濃く残ります。

特に大東流合気之術においては「秘中の秘」として門外不出の奥義としています。


「秘伝」にする理由はいくつかあります。

他流派に技を盗まれないため。

悪用されないように正しい道を進む者のみに伝えるため。

流派の権威を高めるため。


しかし、武術が日常で生き抜くための具体的な手段として扱われた時代ならいざ知らず、現代のような情報化社会の中で「秘伝」というと、いささか時代錯誤ではないか、と言いたくなる方もいることでしょう。

「秘伝」ということを人を惹きつけるための売り文句として、誇大広告のような印象を受ける人もいると思います。


ところが「秘伝」にはとても効果的に作用する場面があります。

それが「学習能力の飛躍的な向上」です。


そのことを説明するために、私が吉丸慶雪師から合気を授かったときのエピソードをご紹介します。


ある時、吉丸師が「合気の秘伝を伝えたいので君に講習してもいいが教わる気があるか?」と言われました。私は即座に「お願いします」と答えました。そしてその秘伝の講習料も早々に納め、合気の講習会が行われることを心待ちにしていました。

しかし数週間経ち、数ヶ月しても講習を行う気配が全くありません。私は師がまさか講習のことを忘れてしまったのかな、という心配が起こりました。講習料も多額であったため不安は大きいものでした。それでも内弟子の立場である自分からは聞くことはできません。

そんな思いの中で気を揉みつつも、自分自身も講習について忘れそうになっていた時期に突然「今日の稽古の帰りにやるよ」と言われました。

突然のことで「え?」と思いましたが、さらに驚いたのはお寿司屋さんに連れて行かれたのです。そこで何気ない話をしながらお寿司を一緒に食べていました。

そしてあるタイミングで突然、「合気はね、こうするんだよ。掴んでごらん」と言われました。そこで一回合気之術をかけられ、「では今度は君がやってみなさい」と言われて同じようにやろうとしました。そうしたら「そうじゃない。こうだよ。はい、これで合気を君に教えたからね。」と言われました。


時間にしたら正味1〜2分の出来事だったかと思います。

これで合気之術の講習は終わりです。


普通に考えたらお粗末な講習だと捉えられるかも知れません。

しかし私はそのわずかな時間で完全に合気を理解することができました。

それは技法や感触のみならず、師の手の形や姿勢、発した言葉、雰囲気も今でも克明に思い出すことができます。


実は講習をすぐにやらずに時間をおいたのも、お寿司屋で突然始めたのも、全てはその合気の秘伝を伝えるための一瞬の動きに、私の全神経を集中させるためだったのです。


人は「いつでも知れる」ものはいつまでも学ぼうとはしません。

逆に「今しか知れない」というものには全身全霊で学ぼうとします。

そのようにして会得した知識や技能は生涯大切にし、その価値を守ろうとします。


伝統技芸においては、技や知識の「習得」とともに「流派の伝承」という大きな目的があります。そのためには技や知識の「価値」も正しく理解しなくてはなりません。まして昔は、今のように悠長に毎週何曜日に練習する、などといったのんびりした時代ではありません。限られた時間の中で流派の核心を正確に伝える必要がありました。


これらの条件を全てクリアして、尚且つ流派の伝承を可能にする方法こそ「秘伝の伝統」なのです。「秘伝」とは「知識」と「価値」を同時に伝承するための、洗練された古の学習方法なのです。



現代はいつでも誰でも簡単に手に入る知識と情報で溢れています。

学校ではいつでも教師が親切に何回でも教えてくれ、インターネットを開けばいくらでも検索し調べることができます。

それはそれで結構な時代ですが、そうした学びの環境に私は少なからず心配をしています。

先に述べたとおり、簡単に手に入るものは、人は大切にしようとしません。

それがいつか知識や技能の価値を落とし、学びとろうとする力そのものを退化させるのではと危惧しています。


そんな風に考えて「秘伝」による伝達方法を現代版にアレンジして善用できないかなと思っています。




本日も最後までご覧いただきありがとうございました。

風が冷たい日が続いておりますが、明日も良い一日にしましょう。グッドラック!

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